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【イベントレポート】生物多様性ってなに?生物学×天文学×哲学で考える。

先日、丸の内のエコッツェリア 3×3 Lab Futureで、イベント「生物多様性って何だろう?−生物学・天文学・哲学の視点から生物多様性について考える」が開催された。都市のど真ん中で、普段あまり意識しない「生物多様性」について多角的に考えることがこのイベントの主旨である。平日にも関わらず50名を越える参加者が3×3Labに集結した。

この記事では、そのイベントレポートをお届けする。

なぜ、生物多様性×哲学?

昨今、「多様性 diversity」という言葉をよく耳にする。その言葉に「生物」がついた「生物多様性 biodiversity」の意味もなんとなくイメージできるだろう。しかし、「生物が多様なことはいいことだ」「自然と人間の共生は大切だ」ということは漠然と理解できても、「そもそも生物多様性とはなにか?」や「なぜそれが大切なのか?」ということをじっくり考える機会はあまりない。今回のイベントでは、生物学と天文学の専門家によるトークに加えて、後半に会場参加型ディスカッション「哲学対話」の時間が設けられ、参加者は様々な観点から改めて生物多様性について考えを深めた。

エコッツェリアの生物多様性プロデューサー深須布美子氏は、今回のイベントについて、「生物多様性を考えるうえで生物学の視点は欠かせないが、当たり前すぎるので、違った視点で考えてみたかった。 そこで、地球が存在している空間でもある『宇宙』というキーワードを入れ生物学に天文学の視点を組み合わせてみた。 近いようで近くない二つの視点をうまく結びつけより多様な考えを引き出すためには、哲学対話をつかえば思考が明確化されるのではないかと考え今回の企画に至った」と語った。

イベント前半:まちづくり、生物学、天文学からみた生物多様性とは?

前半ではまず、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアの「まちづくりを進める株式会社三菱地所開発推進部、溝口修史氏が、大丸有エリアでの「生物多様性」の取り組みを紹介した。緑化推進運動の動向や、丸の内での蜂蜜づくり(丸の内ハニープロジェクト)の紹介など、都市部で人が自然や生物といかに共生しうるか、ということに焦点が当てられた。

自然や生物が豊かであることは、特に都市部で非常に重要である。しかし、働き方や生き方など価値観の多様化が進む現代社会で「まちづくり」に一番大切なことは、そこに住む人間の多様性が存分に発揮できる場作りである。溝口氏は多様性について「多様性とは新しい発想の生まれる場所。量ではなく質の向上を目指したい」と語った。

続いて、奇二正彦氏(NPO法人生態教育センター主任研究員)が「生物学」的な視点から、都市部での生物多様性の実態を報告した。ビルだらけの大丸有エリアでも、日比谷公園や皇居のおかげで豊かな「生態系」が育まれている。日比谷公園には、鳥が35種類、虫が121種類以上の「種」の多様性があるという。

奇二氏によると、一番重要なのは命を育む「環境」(生態系)の多様性である。まちづくりといっても、ただ緑地を増やすだけでは意味がない。周辺の生物を調査し、それに合った植物を植えるなど「生態系」全体に配慮した緑化計画が必要である。奇二氏は「都市の多様性を通じて、他者(人間以外の生物)に対するまなざしを育むことは、新しい豊かさを考える上で、今後ますます重要」とまとめた。

前半の最後は、高梨直紘氏(東京大学特任准教授・天文学普及プロジェクト「天プラ」代表 )が「天文学」の視点からトークを行った。高梨氏は、思考の幅を広げるため「宇宙に生物はいるのか?」という大きな問いから出発した。「宇宙人」と聞くとSFを想像する人が多いかもしれないが、「宇宙生物学(アストロバイオロジー)」研究は「宇宙に地球生命以外の生命は存在するのか?」という問いを真面目に考える分野である。

ここ20年程で、それまで太陽系外に惑星はないとしてきた天文学の歴史は覆され、3000以上の太陽系外惑星が見つかったという。このことは、宇宙にも「多様な環境」が存在する可能性を十分に示している。高梨氏は、地球外にも多様な生態系があり、そこに適合する生物がいるだろうと考えている。そして、人間の視点のみから生物多様性を考えることに限界があると指摘し、「ユニバーサル(宇宙的)に通用する生物多様性概念はあるのか?」という問いを投げかけた。

イベント後半:「哲学的に」生物多様性について考える?

後半のディスカッションパートでは今井祐里氏(上智大学哲学研究科・対話探究ラボSCiP)らがファシリテーターを務め、「哲学対話」を行った。哲学対話とは、文字どおり哲学的に対話をしてみようという試みである。ディベートとは異なり、参加者が互いに問いや意見を交換し合い、答えを探りながら考えを深めることを目的としている。

今回の対話で出てきた問いをいくつか紹介したい。

・そもそも多様性はよいことなのか?
・多様性を目指す観点は誰のものか?
・多様性を必要とする生物は人間だけなのか?
・人間が手を加える自然は自然なものか?
・守るべき生物とそうでない生物、その選択の基準はなにか?
・多様性を守るために失っている多様性があるのではないか?
・生物にとっての幸せとはなにか?
・生物多様性の保護は人間のエゴなのか?

参加者は「生物多様性」や「多様性」に関するこれらの問いを巡って、他の参加者とともに活発な議論を繰り広げた。

科学技術がますます進歩する現代社会では、生物やその多様性について考える機会は滅多になく、その必要もないと感じる人は多いかもしれない。

しかし、生物多様性やその重要性を考えることは、同時にわたしたち人間の生命を省察することでもある。科学技術と生態系の一員としての人間の関係、人間と自然の繋がり、生物に対する人間の役割、さらに社会における人間の多様性についてなど、考えるべきことは尽きない。

エコッツェリアでは、今後も「生物多様性」に関するイベントを開催する予定だという。ぜひ、イベントページをチェックしていただきたい。

 Text & Photos by Reina Tashiro


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