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僕らが渋谷に惹かれる理由〈前編〉

若者の街と言われ、外国人が最も注目するスポットと言われる渋谷。
僕自身、渋谷に惹かれてしまう。そしてそう感じる人は少なくない。

なぜ、渋谷は人を引き付けるのだろうか。

こんな問いを抱きながら、2016年11月、nebulaの岡田は、渋谷在住のアーティストの布村(ほむら)さんと一緒に渋谷を歩いてみた。

かつてアリストテレスは弟子たちと散歩をしながら語り合ったことから、彼の学派は「逍遥学派」と呼ばれたという。歩行は思考を刺激するのだろうか。

渋谷に促されるままに、ストリート文化やARの話から、ハロウィンや名曲喫茶の話まで、話題は二転三転しながら、渋谷の秘密に迫っていく。

今回の撮影には、「Takumar 28㎜ f3.5」というレンズを使用した。これは、人間の眼で見た風景に限りなく近い写真を撮れるレンズで、警察の記録写真にも使われるほどだという。アート的な写真とはまた違ったアプローチになる。

All photos by  YOSHIKAZU HOMURA

渋谷とストリートけん玉

渋谷探索は、宮下公園の隣にある歩道橋から始まった。

ほむら ここって面白いんですよ。なんか感じません?

岡田 なんか柔らかいですね。床版がコンクリートじゃなくて、クッション材ですね。しかも微妙に揺れている。なんというか浮遊感がします。このしっくりくる感じは、ここに来てみないとわかんないでしょうね。見晴らしもいい。

Photo by Yoshikazu Homura

ほむら 今も女子大生っぽい人たちがここで撮影してますよね。昼はこんな感じです。でも夜になると、「ストリートけん玉」をやっている人たちがいるんですよ。

岡田 ストリートけん玉っていうのがあるんですか。

ほむら はい。日本けん玉協会が決めているけん玉のルールって蹴っちゃいけないとかいろいろルールがあるんですけど、ストリートのけん玉っていうのは、そういうの関係なく、ダンスの要素を入れた自由度の高いものなんです。
この近くにBMX(小型の競技用自転車)関連の商品を扱っているDECADE TOKYOっていう店があるんですけど、そこの人たちがけん玉にも興味を持つようになって、今じゃけん玉界隈の重要なスポットになってるみたいですね。

▶︎東京のBMX&KENDAMAシーンを牽引するショップ「DECADE TOKYO」


岡田
 へえ。ああ、このへんいろんなステッカーが貼られてますけど、けん玉関連のものもありますね。

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壁に貼ってあるURLの先には

宮下公園に行くと、電磁誘導式ゴルフカーの試乗イベントを行っていた。これを渋谷の街に導入するという可能性も視野に入っているという。宮下公園は現在、様々な催し物の場として活用されている。

宮下公園はいわくつきの公園だ。かつてはホームレスの居住地となっていたが、ナイキが市から命名権を購入した後に改修がなされ、全く異なる装いとなった。その時には、市民と渋谷市との間でかなり揉めたという経緯がある。今でもホームレスの人たちが散見される。

▶︎渋谷・ホームレスの聖地「宮下公園」その後(1)(東京Deep案内)

岡田 この辺、「グラフィティ(路上の落書き)」が多いですよね。

ほむら ですね。渋谷は日本の中ではグラフィティの聖地みたいなところがあります。世界中からグラフィティのライターが書きに来るっていうようなとこがあるようです。

岡田 URLが付いているビラがたくさん貼られてますね。これ何につながっているんだろう。
ああ、これ音楽のアルバムなんですね。Left Ass Cheeksっていうユニットが無料でアップロードしてるみたいです。今流しますね。

ほむら マジすか。あっ、ラップですね、へえ、普通に格好いい。

岡田 結構政治的な歌詞ですね。違法を承知で街に張りまくるっていうのは、ある種のレジスタンスみたいな意識なんでしょうかね。普通だったらラップを聞かない人々にも突き付けられるメッセージになるわけです。電波ジャック(乗っ取り)みたいな発想というか。
あと、この街の中に貼られたURLっていうのは、「ポケモンGO」に通じるものがありますね。

ほむら どういうことですか?

岡田 「AR(拡張現実)」ってことです。ストリートでの表現は基本視覚表現がメインになる。でも今はスマホっていうデバイスがあるわけで、スマホがあると物理的な住所と、ネット上のアドレスを重ねるってことができるようになる。物理的な場所からネット上の音楽や文章につなげることができる。
渋谷に貼られているっていうのはでかいわけですね。だから、ただネットに上がっているっていうのとは違うパフォーマンス要素が入ってきて、印象が変わってくる。

ほむら なるほど。それはありますね。

けん玉が人と人をつなぐ

岡田 普段歩くときに、グラフィティを意識することはほとんどないですけど、こうやって普段とは違う視点で見てみると面白いですね。探偵か何かになった気持ちというか。意識を変えるだけで全然違うというか。でもやっぱ、一人じゃないっていうのはでかいですよね。
「街で遊ぶ」っていうと普通店行くってことになりますけど、そうじゃない遊び方がいろいろあるはずなんです。

Photo by Yoshikazu Homura

ほむら 普通と違う遊びの意識を共有できるコミュニティが大事ですよね。そこで大事なのが、「ツール」だと思うんですよね。けん玉とかがまさにそれなんですけど、「コミュニティができあがる必然性」を作るようなものです。そういうのがないと、どうも盛り上がらない。

岡田 なるほど。いきなり仲良くしようとか、楽しくやろうとしても無理ですもんね。
ツールがあると、自然に互いにつながりが生まれて、知らない人同士が、互いに無関心じゃなくなる。都会では基本的に、知らない人に話しかけないじゃないですか。でも、誰かが落し物をしたら、「落としましたよ」って声をかける。そうすると、一瞬ですが、関係がなかった人たちがつながることになる。同じ「場所」で、何か物を仲立ちにして。
さっき、ほむらさんが写真撮ってたら外国の人に話しかけられてましたけど、あれもカメラっていうツールによるつながりですよね。カメラを持っているってことで、この人には話しかけてもいいかなって思わせられるというか。

Photo by Yoshikazu Homura

ほむら それはありますよね。そんとき、「場所」が大事ですよね。さっきの歩道橋とか、宮下公園のダンスの練習場になっている場所みたいな、機能的で、しっくりくる場所が。

グラフィティが合法になる

宇田川町に入ると、さまざまなところに「グラフィティ」がある。

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ほむら  「グラフィティ」って全部がイリーガル(非合法)ってわけじゃないんですよ。

岡田 そうなんですか。

ほむら 街の文化を作るような試みとして、「リーガル・グラフィティ(合法的な壁画)」っていうのもあるんです。

▶︎宇田川町のパーキング塀にリーガル・グラフィティ(シブヤ経済新聞)

Photo by Yoshikazu Homura

岡田 なるほど、そういう柔軟な姿勢もあるんですね。落書きって言えば、迷惑で嫌なもので非合法なものと思われていたのに、考え方次第、法的な扱い方次第で、街の面白いスポットにもなり得るわけですよね。こういう都市文化みたいなものは外国の人たちにも受けるでしょうし。
今の渋谷には、二つの流れがあるのかもしれませんね。一つは、都市のカオスを除去してクリーンにしようとする流れ。公園通りも変わりましたよね。もう一つは、グラフィティを文化として認めるような都市のカオスと共存して行こうとする流れ。
グラフィティやホームレスのような存在を迷惑だと考える人もいるわけですし、どっちがいいか単純には言えないですけど、少なくともカオスをなくしてしまうと、「多様性」がなくなってしまいます。澄みすぎた水の中に魚は住めないと言われるように、都市の生命力を殺さずに、行き過ぎた無秩序を制御する道が問題ですよね。

 

前編では、渋谷が宿しているカオスに注目していく中で、街を面白くしていく上での課題が浮かび上がった。
後編では、なぜ人が渋谷に惹かれるのか、渋谷のあの独特の魅力の正体は何なのかをストレートに掘り下げることを目指す。

▶︎僕らが渋谷に惹かれる理由 〈後編〉