Dialog

“食”を考えることは社会を考えること。サンフランシスコAlemany Farmの挑戦

なぜいま、都心部で農業を営むのか。
サンフランシスコ・ベイエリアのコミュニティファームAlemeny Farmの運営に携わり、産業に最適化された既存の食システムを市民に開かれたものとする改革に取り組む佳奈(カナ)・ロマン=アルカラさんを取材。インタビュアーとして、現在(インタビュー現在)アメリカ旅行中で、東京アーバンパーマカルチャーの活動に参加する順子さんにご協力いただいた。nebulaの伶奈は日本からテレビ電話で参加した。

この記事はインタビュー形式で、佳奈さんの活動内容や経緯を紹介する。後編は前編に基づいて、“安全な食”を哲学的な切り口で問い、語り合う。

▶︎後編:好きならなんでもよくない?それでも“安全な食”が必要な理由
▶︎前編インタビュアー 順子さんの対話記事:旅をしたら人って本当に成長するの?

環境と身体に優しい食。そして、安全な食

いま、日本や西欧諸国でオーガニック(有機栽培)が注目を集め、最近ではベジタリアン(菜食主義)やヴィーガン(乳製品も食べない完全菜食主義)も増えている。このような食への関心は、SNS世界のおとぎ話ではない。農業界からもパーマカルチャー(※1)やアグロエコロジー(※2)といった新しい農業のあり方が提案され、現代は様々な角度から「食」が捉え直されている時代なのだ。

アーバンファーミングもその運動の一つ。都市の真ん中にガーデンやファームをつくり農業を営む“都市農業”だ。地域と連携を深めながら人々の交流を促すコミュニティファームやコミュニティガーデンも「食を通じて社会を考える場」として機能している。

※1:パーマカルチャー:パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法(Permaculture Center Japan より)。

※2:アグリエコロジー:世界で現在推進されている工業化された農業に対するオルタナティブと広く認知され始めている農業や社会のあり方であり、それを求める運動であり、科学のこと(オルター・トレード・ジャパン(ATJ)より)。

左から佳奈・ロマン=アルカラさん、小林順子さん

伶奈(nebula)は日本からテレビ電話で参加

都市農業でコミュニティづくり

伶奈 佳奈さん、順子さん、よろしくお願いします。最近「健康であれ、かつ地球に優しくあれ」という風潮をどことなく感じていて。でも日本だと、例えばオーガニック食品はとても高価だし、そういった関心がある人は、道徳的に偉いというよりも意識高い系だというイメージがある。もちろん“安全”はよいことだし、食は人間が避けられないテーマだから、もっと身近に考えることができたらいいなと思って取材させていただきます。

順子 ではまず私から、佳奈さんの現在の活動とそれに至るまでの経緯をざっくり聞きたいと思います。

佳奈 大学院の在学中に、モザンビークの農民の活動について研究をしてたの。外国資本や現地政府が推し進める工業的な農業生産と、現地の人が支持する環境や社会に負荷の少ない農業手法の対立関係が当時のテーマ。オランダで研究をしていたときに、現在のパートナー、アントニオに出会って、いまカリフォルニア州ベイエリア在住です。アントニオは2005年にサンフランシスコの中心部でAlemany Farmというコミュニティファームをゲリラ的に開始したの。今は一緒に、Alemany Farmをはじめ、都市農業を広める活動や食料システムを変えていくための制度作りをしてる。

順子 活動を始めたきっかけは?

佳奈 アメリカでもオーガニックの食べ物はとても高くて、例えば低所得層の人は安全な食べ物にアクセスできない。そういう人たちに安全な食べ物を無料で提供する場をつくりたい、というのがこの活動の動機。

順子 Alemany Farmの特徴はどんなところ?

佳奈 Alemany Farmの理念は主に4つ。

1.   安全で美味しいオーガニックの食料を無料で提供:格差や人種の違いに関わらず誰でも安全な食料にアクセスできるようにする
2.  食育の場づくり:世代を超え、食べ物や環境に関する知識を深める教育の場にする
3.  技術訓練の場づくり:持続可能な社会の実現のために自分で食べ物を育てる技術を学ぶ
4.  コミュニティづくり:初心者向けガーデニング講座などを開催。多様な仲間から成り立つコミュニティ、コミュニティのリーダーを育てる

Alemany Farmの様子

佳奈 Alemany Farmでは、働いてくれたボランティア全員に栽培した食べ物を分け与えているの。ここでの労働は教育の役割も担っていて、多様な人たちと食べ物の作り方を学ぶことを通じて「食べ物はスーパーで買うもの」ではなく「育まれた命をいただくもの」という意識変革の場にもなっている。田舎ではなく都会で農業をしているのは、それを押し進める上で一番効果的だから。

今後、誰でも食べ物を作れるようになる技術と知識が大事になってくると思うんだ。未来を見据えた時に現在の社会のあり方じゃどう考えても持続可能ではないと思っているから。だから技術訓練の場としても畑を提供している。実際に、訓練を受けた人が別の場所でコミュニティファームを開くなど、少しずつ拡大はしてると思う。いまでは、Alemany Farmはアーバン・ファーミング運動としてサンフランシスコで一番大きいファームに成長したの。

自立した食のシステムをつくりたい

順子 佳奈さんの個人的な問題意識は?

佳奈 種(タネ)の問題かなあ。わたしは昔ながらの種を、未来に伝える取り組みをしている。つい先日、日本でも主要農作物種子法廃止(※)が可決されたけど、いま種は、産業として巨大企業が品種改良のうえコントロールしているから、もともと農家が使っていたものはほとんど残っていない。普通にアメリカのスーパーで売っているトマトは、企業が特別に開発した種から生産されたもので、農薬なしには育たないものもある。食の多様性が徐々に失われていて。すごく危ないことだと思う。食がぜんぶ資本主義システムに組み込まれちゃってるから。

※主要農作物種子法廃止については、「種子法廃止に慎重論 基礎食料 安定供給損なう恐れ」(東京農業新聞)が詳しい。

順子 コミュニティファームは、いわゆる家庭菜園みたいな“趣味”ではなく人々の意識や未来を変える“社会変革”という目的がある?

佳奈 政治的、社会的な目的はかなりあると思う。「食のシステムを変える」ことがこの活動の大きな目的の一つ。わたしもこういった広がりを知るまでは、単なる家庭菜園だと思っていたんだけどね。サンフランシスコ・ベイエリアって、ブラックパンサーをはじめ、公民権運動や環境運動、女性解放運動といった社会運動が生まれた場所でもあって、社会参画への意識がすごく高い。

わたしは、食も社会変革の一つの窓口だと思うの。「平等で環境に優しい社会をつくっていこう」という運動の一つの方法としての食。身近な問題だしみんなで取り組めるじゃない?

順子 コミュニティファームの活動はどんな感じで広がっている?

佳奈 このエリアだとコミュニティファームやガーデンはすごい流行ってるの。サンフランシスコでも100くらいあって、ベイエリア全体ではもっとあると思う。うちの畑には、幼稚園生や小学生が農業体験しに来たり、AppleやTwitter、Facebookといった大企業の研修で使われることもある。他にも、元受刑者の社会復帰の場とか、障害者のためのコミュニティガーデンプロジェクトもある。アメリカってまだまだ人種差別が激しいんだけど、そういう中でアフリカ系アメリカ人の女の子をエンパワーメントするためにコミュニティーガーデンを活用する動きもある。

順子 Alemany Farmでボランティアする人や学びにくる人は、みんな社会変革の意識が強い ?

佳奈 中には「とりあえず野菜くれ」みたいな人とか、全くボランティアせず野菜を取っていく人もいるんだけど、それもそれでありかな(笑)。うちのファームが昔、数年の間市から融資を受けていたことがあったの。お金の使い道を考えて、ファームのすぐ隣にある低所得者向けの公営住宅に住む人たちに「畑で何をしたいか?」って聞いて回ったら、彼らは安全な食への関心よりも「働き口をくれ」って感じ。だから、融資を使ってそういう若者を雇って畑仕事をしてもらっていた。

ファームを始める人の動機もそれぞれ。ハーブ好きとか土地が余ったからとか。それでもやっぱり「食料システムに働きかけたい」という政治的な意識を持ってる人は多いと感じる。うちのファームでも、作業しながらみんなで政治や社会の話をするの。

順子 なんでアメリカでコミュニティファームがこんなに成長できたんだろう?日本でやっても大企業が来るとかマイノリティのエンパワーメントに使うとかあまり想像できないなあ。

佳奈 ギフトエコノミー(贈与経済)が多かれ少なかれ浸透しているからかな。貨幣を重視することで見失いがちな、その背景にある信頼関係や人間関係を大切にしている感じ。ただこういうプログレッシブな運動が盛んなのはアメリカでも一部に過ぎないし、ここベイエリアはすごく特殊な地域。人々の社会への意識や経済状況ってアメリカ全土でかなり違うから。それは、この前の大統領選にも如実に出てたと思う(笑)。

資本主義社会、格差社会に対する社会運動?

伶奈 わたしも日本から質問しますね。こういった運動って格差社会の反動なのかな?資本主義のど真ん中で生きていると、農業に割く時間は皆無だしそもそもお金があれば安全なものも好きなものもすぐに食べられる。日本社会は格差社会だけど、おそらく貧困層やマイノリティの存在がアメリカほど可視化できていないから、なんとなくみんな同じもの着て同じもの食べて暮らしている、という幻想が蔓延しがち。一方アメリカだと富の集中の肌感覚が日本以上に存在している。なので、佳奈さんの運動は、現代社会の構造に対するアンチテーゼでもあるのかなと思って。

順子 貧困層と富裕層のギャップをどうにかしようという政治的な動きということ?

佳奈 なるほど。そういう側面は大きいと思う。いまベイエリアはドットコム産業が一気に発展したせいで土地代が数十倍に跳ね上がって、日本で6、7万で住めるところが30、40万するのね。その結果、有色人種や社会的弱者やアーティスト、お金のない人がみんな立ち退きにあってる。わたしたちも実は立ち退きにあったんだ。

ここには億万長者からヒッピーや過激な活動家まで、かなり多様な人がいて。そこからギャップや摩擦が生じている。けど面白いのは、この摩擦が新しい運動を生み出しているということ。新たなシステムを目指す人たちが、自分の手で食べ物をつくり始めているしね。あまりにもギャップが激しいとなにか行動を起こさずにはいられないから。

順子 問題が大きくならないとどうにかしようという運動も生まれない?

佳奈 悲惨な状況を目の当たりにすると、何もしないという選択肢がなかなか生まれづらくない?さっきもここでホームレスにお金くれって話しかけられたし、日々こういう状況を目前にすると何かしなきゃと思う。この辺でもひどいところだと、子供を遊ばせる公園にドラックの注射針が落ちているし、公衆トイレは怖くて使えないし。そもそもわたしが環境問題や社会問題を考えるようになったのも、昔カンボジアの孤児を支援するボランティアをしていて。けど、私は家もあるし幸せだったし、自分の豊かさは誰かの犠牲の上に成り立ってるのかなって辛くなったからなんだ。

日本でも3.11以降、社会への意識が変わった人は多いと思う。でも日本では格差がここまで表面化していないし、主流メディアも大切なことはあまり伝えていない。アメリカに比べて社会の闇の部分を意識しなくても生きていきやすい気がする。

Alemany Farmで実際に農業体験をする順子さん(写真左)

順子 アメリカは食システムに関するドキュメンタリーがすごい多いよね?スーパーやレストランでも「オーガニックです」「遺伝子組み換えじゃないです」「ホルモンを打っていません」みたいなラベルが貼ってあって、食の現状が悲惨だなとわかる。

佳奈 それだけアメリカの状況が深刻なのかも。でも、日本も同じくらい深刻だと思う。子供たちの命にも関わる問題だし、もっと食への意識が高まればいいなと思う。最近日本でも公開された「Edible City」という映画は、市民が自分の手で食のシステムを変えていこうとするドキュメンタリー。私たちのファームも出てくるんだ。こういう映画をもっといろんな人に見てもらえたらいいな。

▶︎後編:好きならなんでもよくない?それでも“安全な食”が必要な理由
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プロフィール

佳奈・ロマン=アルカラさん
アグロエコロジー研究&実践者。オランダエラスムス大学修士。ベイエリアのAlemany Farmを始めとするコミュニティファームで農業と種採りをしている。他にも、在来種の保存、先住民領地保護活動、執筆、翻訳、食料政策などに取り組む。一児の母。趣味はジャングル生活、好きな食べ物はパイナップルグァバ。
canaromanalcala@gmail.com